甘い愛で縛りつけて
◇「おまえ、何泣いてんの?」
「恭ちゃん……桜田先生の事だけど……」
恭ちゃんがあまりにずっと抱き締めたままでいるから、少し戸惑いながら恭ちゃんの胸を軽く押して言う。
もちろん嬉しいしこのままでいたい気持ちもあるけど、この空気が甘すぎて慣れなくて。
やっと離れた恭ちゃんが、優しく微笑んでいた。
「その事なら大丈夫だから気にするな。俺の方で解決するから」
「大丈夫って……なんでそんな事言い切れるの? だって証拠だってあるって……やっ、ちょっと、なに?」
恭ちゃんが本当に余裕そうに笑うから、何か理由があったり解決方法があったりするのか聞きたいのに。
急に腰に回ってきた恭ちゃんの手に、会話を遮られる。
腰っていうより、お尻に近い。
「それよりおまえ、なんで痴漢に大人しく触らせてたんだよ」
「え……」
さっきまで微笑んでいた恭ちゃんが不機嫌に顔を歪めていて、その表情が電車に乗っていた時の顔と重なる。
痴漢を蹴り上げた後の、恭ちゃんの怒ったような顔と。