甘い愛で縛りつけて



「河合さん、おはよう」

職員玄関前にある幅の広い外階段は、学校の顔でもあるからって理由でいつも生徒によってキレイに掃除されている。
石のタイルを張りつめている階段は確かにキレイだけど、周りの目を気にするあまり職員の事を考えていないと思う。

なんで毎朝階段を上らせるんだって若干恨めしい。
大体にして職員用玄関が二階にあるのがおかしいのかもしれない。

事務室は二階にあるからまだいいけれど、職員室は一階だから、先生方は外階段を上がってきてまた校舎内の階段を一階に下るっていう運動を一日少なくとも二回は繰り返しているわけだから大変だなぁと思う。

そんな階段を上りきった時、後ろから声をかけられた。

「おはようございます、事務長」

五段ほど後ろにいる事務長が足を進めて私の隣に並ぶ。

「昨日はきちんと朝宮くんの手伝いに行ってくれたみたいだね。ご苦労様」

一瞬、言葉に詰まってしまった。
昨日私は確かに恭ちゃんを手伝うために保健室に行ったけど、桜田先生がいたからすぐに引き返して、規則を破って廊下を走った上そのまま学校を飛び出してしまった。

多分あれは定時前だったと思う。

しかもその後痴漢にあって、その後助けてくれた恭ちゃんと……。

私を信じてくれている事務長に向ける顔がなくて、昨日は手伝いに行きませんでした!すみません!と頭を下げようかと思っていると、靴を履きかえながら事務長が言う。


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