甘い愛で縛りつけて
「さっき朝宮くんにも会ったんだが、とてもいい顔をしてたよ。
河合さんが一緒にいてくれるから助かるって言っていた」
そうですか……と答えながら、恭ちゃんはなんで罪悪感を感じないんだろうと不思議になる。
こんなにいい人の事務長に平気で嘘をつけるなんて良心のある普通の人間には無理だ。
私なんて、手伝いましたの一言でさえ言えないっていうのに、よくもそう嘘が口をつくものだと呆れを通り越して感心さえしてしまう。
「実はね、昨日、廊下を走る河合さんを見たんだよ」
「え……っ」
驚いてから、でもあれが定時前だったとすれば、見られていたとしてもおかしくないと納得する。
事務室があるのは、職員玄関のすぐ前だ。
つまり私は昨日、事務室前を走り抜けた事になるのだから、見られて当たり前って事になる。
昨日は悲しさややるせなさに明け暮れてそんな事を気にしている余裕もなかったけれど、道順を考えるべきだったと今反省する。
「すみません……。廊下を走ってしまった上、定時前だったのに……」
頭を下げると、事務長はいやいやとすぐに怒る気ではない事を告げた。
顔を上げると、微笑んだ事務長と目が合う。