甘い愛で縛りつけて
「心配してたんだよ。河合さんが泣きながら走っているように見えたから。
でも、その後をすぐ朝宮くんが追って行ったのが見えて……」
「え……っ、それ、他の誰かに見られたり……」
「大丈夫だよ。他の事務員は席を外していたし、事務室にいたのは私だけだ。ふたりが通り過ぎてすぐ事務室前の廊下を確かめたが、誰もいなかった」
そう言われて、ホっと胸を撫で下ろしながらも申し訳なくなってもう一度頭を下げる。
「すみませんでした。変な気まで使わせてしまって……」
「私が勝手に心配してるだけだから、気にしないでくれ。第一、きみに朝宮くんの傍にいるように命令したのも私だし、責任は私にある」
微笑む事務長と事務室に入ると、まだ他の人は出勤してきていなかった。
時計を見ると、まだ八時前で、定刻まであと20分余裕がある事が分かった。
だから、思い切って今まで気になっていた事を聞いてみる事にする。
機会があったら聞きたいとずっと思っていた事を。
「事務長は、なんでそんなに朝宮先生を気にされるんですか?」
事務長は持っていたカバンをデスクに置いてから、私に視線を移した。
「この職業をやっていると、色んな子どもを見るだろう。素直な子やひねくれている子、優しい子に、尖っている子……。
今までたくさんの子どもを見てきたけれど……その中で彼が一番危うく見えたんだ」