甘い愛で縛りつけて
「平気で実紅を傷つけて笑うような女だし、あれくらいしても当然だろ。わざとらしい態度も言葉遣いも、男しか頭にないような感じがして最初から気に入らなかったし。
自分の事だけ可愛がって周りを犠牲にするようなヤツは地獄に落ちればいい」
「地獄って……」
「ご都合主義もいいところだ」
対向車のライトに照らされる恭ちゃんの横顔が少し険しく見えて、思わず言葉を飲む。
じっと見つめているとそれに気づいた恭ちゃんが私に横目をひっかけて、微笑んだ。
「つまり、人を傷つけちゃいけませんって話。小学校で習ったろ」
まるでさっきまでの険しい表情をはぐらかすような恭ちゃんの笑みと軽い口調。
それに気づいたけれど、少し考えてからそれを問い詰めるのはやめようと決める。
恭ちゃんが触れて欲しくない部分に感じたから。
多分、恭ちゃんが抱えている傷に関係する部分なんだろうとは思ったけれど、今はまだ聞くタイミングではない気がして。
「お母さんに顔見せて行けば? きっと喜ぶと思うけど」
家の前でシートベルトを外しながら言うと、恭ちゃんはまた次の機会にすると言った。
理由は、手土産のひとつもないしって事で、そんなの気にしなくていいとは言ったけれど、久しぶりに会うのに社会人としてそれはマズイからって譲ってくれなくて。
変なところで真面目だなとおかしくなりながら恭ちゃんの車が走って行くのを眺めた。