甘い愛で縛りつけて


リビングのソファに鞄を置きながら指摘すると、お母さんは反論できずに黙る。
やっぱりか、と呆れながら洗面所に向かおうとして……お母さんを振り返った。

「ねぇ、恭ちゃんって覚えてるでしょ? 朝宮恭介」
「朝宮……ああっ、実紅が追い回してた恭介くん?」
「そう。恭ちゃんが四月から同じ学校に赴任してきたの。保健医として」
「えっ」
「で、遅くなっちゃったから今日送ってきてくれたんだけど……。とりあえずお腹空いちゃったからご飯食べたい」

いいところで切ったからか、お母さんは、もう!と文句を言いながらエプロンをつける。
それから、洗面所にいる私に「ご飯食べながら続きを話すのよ!」と大声で言った。

近所の奥様との噂話だけじゃ飽き足らず私の恋愛事情まで首を突っ込みたがるお母さんに呆れながらダイニングに行くと、テーブルの上にはもう夕食が並んでいた。

炊き込みご飯と魚の煮つけに、サラダとお味噌汁。
いただきますと手を合わせると、向かいに座ったお母さんがお茶を入れながらわくわくした目で私を見る。

「で、恭介くん、あのまま成長した感じなの?」
「私まだ一口も食べてないんだけど。……あのままじゃないよ。だいぶ変わってた」
「変わってたって、まさか不良に?!」
「保健医だって言ってるでしょ。不良なわけないじゃない。
でも……昔と比べたらそうなるかもしれないけど」
「ちょっとお母さんにも分かるように説明してくれる? 昔とどこがどう変わったの?」
「えー、面倒くさい……」

ご飯を食べながら顔をしかめると、お母さんも同じようにしかめっ面をするから、仕方なく、カッコよくなってたと答える。


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