甘い愛で縛りつけて


「それで、恭介くんが生まれて一年くらい経った時、ついに千香子さんは恭介くんを置いて家を出て行ってしまったの。
その時の朝宮さんの取り乱し様は尋常じゃなかったわ。
必死になって千香子さんの事を近所中に聞きまわって……あの執着は少し異常だった。千香子さんは離婚届を残して行ったらしいけど、それにもサインしてないって噂が後から流れてたわ」
「その後、恭ちゃんは……?」
「朝宮さんのお母さんが育ててくれたみたいよ。
小学校に上がるのをきっかけにまたこっちに戻ってきたけど……その時の恭介くんの事、今でも覚えてるわ」

お母さんの顔には眉間に小さくシワが寄っていて、ツラそうだった。

「まだ六歳だったハズなのに、まったく子供らしさがなくてね。常に朝宮さんの顔色を窺っているような感じで見ていて痛々しいほどだった。
ここの環境にはすぐ溶け込んでいったけれど……。
朝宮さんに教育されたからなのか、あの子、どんな環境に立たされてもそこで自分がどう振舞えばいいのか分かっているような感じだったわ。
本当に子どもらしさのかけらもなかった」

その頃の恭ちゃんの事は知らないけれど。
想像しただけで胸が痛んだ。

「恭介くんの事は近所中で噂になったわ。ほら、朝宮さんが少しおかしいって事はみんな気づき始めてたから、その影響で。
朝宮さんはあんなだし、千香子さんも17で夜の仕事をしていたような人だから恭介くんがどんな子なのか好奇の目で見る人がたくさんいたの。
同情をかける人もいたし、蔑む人もいたし……色んな目で見られながらも、恭介くんはいつも穏やかな顔で人形みたいに笑ってた」


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