甘い愛で縛りつけて
そこまで話した後、お母さんが私を見る。
きっと私は泣き出しそうな顔をしていたけれど、お母さんはそれをどういう言うわけでもなく、笑みを浮かべて少し明るいトーンで言う。
「そして中学に上がって、実紅に追い回されるようになったのよね」
「……やめてよ、からかうの。子どもの頃の話でしょ」
「違うのよ。実紅と一緒だと恭介くん、少し雰囲気が柔らかくなってたから、その話をしたかっただけ。
きっと妹みたいに思ってくれてたんでしょうね」
「それで……その後引っ越したんだよね? あれって、お父さんの仕事の関係だったの?」
それ以外思いつかなくて聞いた私に、お母さんは静かに首を振った。
「千香子さんがね、隣の県にいるらしいって話を、朝宮さんが聞いて……それでみたい」
「それだけの理由で……?」
「朝宮さんは本当に千香子さんに拘ってたから。
恭介くんをあんな風に育てたのも、きっと千香子さんが育児に疲れて出て行ったと思ったからかもしれないわね。
だから聞き分けのいい子になるように育てたんじゃないかしら」
私が長い間黙り込んでいたからか、お母さんが話はこの辺にして早く食べなさいと笑う。
私が食べないと片付かないだとか、色々文句を言われたけれど……なかなか箸が進まなかった。
『昔の俺は……まぁ、生きやすい道を選んだ結果かな』
『性格も、ずっとこれが地。品行方正に育てられたし、それが親の希望だってのも分かってたから、それに応えるようにそう演じてただけ』
いつか恭ちゃんが言っていた言葉。その時に浮かべた、悲しそうな微笑み……悲しそうに見つめていた過去。
やっと少しだけその意味が分かって、胸を悲しさが包み込む。