甘い愛で縛りつけて
◇「慰めろよ、俺の事」



土曜日の朝。
突然マンションを訪ねた私を、恭ちゃんは想像通りの声で迎えた。
チャイムを二度三度鳴らして、ようやくインターホンを取る音が聞こえてきて……その後すぐに「実紅?!」って驚いた声が聞こえてきた。

当たり前だ。朝の六時にインターホンをこれでもかってほど押されたら誰でも不機嫌になるし、その上それが知り合いだったら驚いて言葉もなくすと思う。

恭ちゃんの住んでいるマンションは噂に聞く通り、キレイだった。
モダンというか近未来的というか、マンション全体が無機質な感じだ。

外観はコンクリートの色で統一されていて、マンションを囲むように緑が植えられていた。
ポストは部屋ごとだったから、特にエントランスみたいな部分はなく、自動ドアを入るとすぐに廊下が伸びていて部屋番号の書かれたドアが並んでいた。

その建物の三階、一番奥の部屋に恭ちゃんは住んでいた。

インターホンから私を確認する声が聞こえてすぐに、ガチャっと玄関が開いて、スウェット姿の恭ちゃんが姿を見せて……信じられないとでも言いたそうに顔をしかめた。

「おまえ……どうした」
「どうもしないけど……入ったらマズイ?」
「別にいいけど……でも、今まで寝てたし散らかってるからな」
「うん。おじゃまします」

恭ちゃんの後に続いて部屋に入ると、閑散とした光景が目の前に広がった。
外壁と同じような薄いグレイの壁と、黒に近い色のタイルが敷き詰められた床、そして……必要最小限の家具。


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