甘い愛で縛りつけて
「事務長に聞いた。おまえにケガがなくてよかったって言って笑ってたけど。
事務長、本当におまえの事可愛がってるよな」
「……私には、恭ちゃんを可愛がってるように見えるけど。今でも足しげく保健室に通ってるんでしょ?」
「たまにな。まぁ、子どもだとか孫みたいな感覚で見てるのかもな」
そう言って、座ったままの状態であおむけに倒れた恭ちゃんをじっと見つめてから、そっと手を伸ばす。
頭をなでると、恭ちゃんは一瞬驚いてから私を見て……苦笑いを浮かべた。
「なんのつもりだよ、これ」
「なんのつもりでもないよ。ただ、私がしたかっただけ」
「おまえ、何かあっただろ。いきなり来て、しかも少しおかしいし。
何が目的か言ってみろ」
「別に目的なんか……ただ、恭ちゃんに会いたかったんだもん」
昨日、お母さんから話を聞いた時からずっと会いたくて会いたくて仕方なかった。
私は恭ちゃんがいてくれるだけで嬉しい。
だから会ってそれを伝えたかった。
だけど、私がそうしたくなった理由を知ったら、恭ちゃんは嫌がるような気がしたから素直に言えなかった。
恭ちゃんが今まで私に何も言わなかったのは、その事に触れられたくなかったからだ。
恭ちゃんは両親の事も家族の事も、私の前で話題にしない。
まるでわざと避けてるみたいに。
それどころか、それにつながる話題になっただけで、恭ちゃんは悲しい瞳をして心を閉ざした。
過去の話になると、恭ちゃんは必ずあの瞳をして、目を伏せてしまった事には私も気づいてた。