甘い愛で縛りつけて
それを考えると、恭ちゃんは私に何も知ってほしくないハズだし、何も知らないままの私で接して欲しいんだと思う。
恭ちゃんの望みを考えれば、私が踏み入らない方がいい。
だけど……それじゃ納得できなくて。
恭ちゃんが抱えている悲しさを見て見ぬふりしたまま笑ってるなんて、私にはできなくて……。
「会いたかったって、なんで?」
「だって……っ」
「だって、なんだよ」
「だって……」
それ以上、言葉を続けられなかった。
“今までつらかったよね”
そんな言葉を恭ちゃんが望んでいるなんて思えない。
“つらかった分、これから幸せになれるから”
何の根拠もないその場しのぎの慰めを欲しがってるなんて思えない。
“恭ちゃんが気にする必要なんてない”
“過去の事はもう忘れて”
頭に浮かんでくるのは、痛い思いなんて一度もした事のない私が作った、陳腐な言葉ばかりで。
そんな言葉が恭ちゃんを救えるとも、一時の癒しになれるとも思えなかった。
私は……役立たずだ。
恭ちゃんに言葉ひとつかける事もできない。
「……実紅?」
言葉にならない気持ちが、涙になって溢れ出す。