甘い愛で縛りつけて


どんなに身近な人が相手でも、どんなに想い合っている人が相手でも。きっと本当の気持ちを分かり合えるなんて事ないと思う。

見えない気持ちを言葉で表して相手に伝えて。
そこでやっと理解する事ができるんだと思う。

だけど。
私はこの時、言葉にされていない恭ちゃんの気持ちが見えた気がした。

恭ちゃんの嘘が、見えた気がした。

『気にしてない』
伏せられた瞳、軽い笑い方。
まるで自分の気持ちから目を逸らすような恭ちゃんの態度。

私の頭を撫でる手はとても優しいけれど……それはまるで自分の動揺を抑えるために恭ちゃんが私に触れているみたいだった。

恭ちゃんが傷の周りに張っている予防線が見えた気がした。

私は、ただ恭ちゃんの傷を遠巻きに見て同情したいわけじゃない。
私は……その中に入りたい。

恭ちゃんが張る、予防線の中に。

恭ちゃんがどんなに嫌がっても……私は、恭ちゃんが抱えている傷を一緒に持ちたいよ。

例え傷だらけになったとしても、恭ちゃんと一緒がいい。

でも、それを望む事が恭ちゃんを追い詰める気がして……目を伏せる恭ちゃんに、それ以上何も言えなかった。



< 255 / 336 >

この作品をシェア

pagetop