甘い愛で縛りつけて
「もし実紅が俺を裏切ったり、離れていこうとしたらおまえに何するか分からない。
自分の中にあるそういう部分がたまに怖くなる」
微笑んだまま、恭ちゃんは目を伏せた。
昨日話を聞いた後。
何も言えなくなった私に、お母さんは、もう終わった事なんだからと言った。
恭ちゃんはもう大人なんだし大丈夫だって。
でも、それは違う。
終わってなんかない。
恭ちゃんの中に残っている過去の記憶は、恭ちゃんを永遠に解放する事なんかない。
今日、それに気づいた。
終わる事なんてない、恭ちゃんの苦しみに。
「私がもし恭ちゃんを裏切ったりしたら、恭ちゃん、好きにしていいよ」
伏せられていた瞳が、困惑を浮かべて私を映す。
「恭ちゃんを裏切ったり、勝手に離れたりしたら……私も私の事許せないから。
その時は恭ちゃんの手で罰を下して――」
怖がらないで。
どんな感情を浮かべた瞳でもいいから、俯かないで私を見て。
救い出せる自信はないけど、恭ちゃんの持っている闇を共有する事ならできる。
恭ちゃんが呑み込まれそうになったら、私も自らそこに飛び込む自信ならあるから。
それだけは忘れないで。
ひとりじゃないって事を忘れて孤独になろうとするのだけはやめて。
恭ちゃんの戸惑う瞳に私が映っていた。