甘い愛で縛りつけて


「またサッカー部のコーチをさせてもらえる事になったから、部員とは打ち解けられたし少し落ち着いたところですかね」
「そうなんですか」
「椅子、持ちますよ。どこまで運ぶんですか? 体育館用なら、壇上下に片付けるんじゃ……」
「あ、体育館に置いてあるパイプ椅子が数脚壊れちゃって数が足りなかったので、事務室の予備のを急きょ持ってきたんです。
重くないし平気ですから気にしないでください」

以前はこうして普通の会話をする事さえ緊張してうまくできなかったのに、今は平気だった。

笠原先生に憧れって感情がなくなったってわけじゃないけれど、恭ちゃんの存在が大きすぎて、憧れとしてでも笠原先生を気にする余裕もなくなってしまったのかもしれない。

「実は、ずっと気になってたんですよ。河合さんにどうしても注意しておきたい事があって」

急にそう告げられて見上げると、困った顔をした笠原先生と目が合った。

「事務の田口さん、割と本気で河合さんの事狙ってるみたいだったから」
「ああ、田口さん……あの人は多分誰の事も割と本気で狙ってるんじゃないかと」

チラっと後ろを見ると、田口さんの姿はもうなかった。
どうやら先に戻ったみたいだ。



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