甘い愛で縛りつけて


「だけど、あまりいい噂を聞かない人だったから、一応河合さんに伝えておきたかったんです」
「だから話しかけてくれたんですね。ありがとうございます。気を付けます」

この学校にいた時もそんなに接点はなかったから、なんで話しかけてきたのか不思議だったけど、ようやく腑に落ちた。

そして優しいなぁと思っただけで、それに対してそれ以上何かを思う事はない自分に気付いて。
やっぱり恭ちゃんに気持ちを占められてるんだなーと苦笑いを浮かべていた時、後ろから恭ちゃんに呼ばれる。

「実紅、腰の調子はどう?」

優しい微笑みから発せられた言葉の本当の意味を知っている私は、隣でハテナ顔を浮かべる笠原先生に言い訳するように答える。

「か、階段で転んで打ったところならもう大丈夫っ!」
「え、階段で転んだんですか?」
「でも軽く打っただけなんで、もう全然大丈夫なんです!」
「椅子、やっぱり持ちますよ。けがしてるところで無理なんかしたら余計に痛みが後引きますから」
「いえ! 今日の主役にそんな事お願いしたら校長先生から私が怒られますから!
あ、笠原先生は職員室ですよね! じゃあ私はここで」

椅子を死守しながら笠原先生との会話を無理やり終わりにしたのに。
椅子の攻防を静観していた、そもそもの元凶の恭ちゃんがまたいらない事を言い出す。





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