甘い愛で縛りつけて
「笠原先生、随分親切なんですね。普段から誰にでもそんな優しいんですか?
それとも、うちの実紅に気でもあるんでしょうか」
微笑みながらそんな事を言い出した恭ちゃんに、本来なら怒るべきだけど……すぐに言葉が出なかった。
恭ちゃんは微笑んでいるけれど、それがいつもの微笑みとは違うモノに見えたから。
だけど、「うちの?」と首を傾げた笠原先生にハっとして、恭ちゃんの腕を引きながら答えた。
「親戚なんです! あ、恭ちゃん、私保健室に用事あったんだった!
ついでにコレ持って! じゃあ、笠原先生。お元気でっ」
椅子を恭ちゃんにぐいぐい押しつけながら、笠原先生に早口でお別れの挨拶をしてその場から去る。
途中でチラっと振り返ると笠原先生は職員室に向かって歩いていた。
多少気にしてはいたみたいだけど、流してくれてよかった。
胸を撫で下ろしてから、顔色一つ変えずに歩く恭ちゃんを睨みつけた。
「なんであんな事言うの?」
廊下だから声を張り上げたりはしないけれど、口調から怒っているのは伝わったようだった。
恭ちゃんは私に横目をひっかけた後、また前を向いてしまう。
「別に。やけに親切だから下心でもあるんじゃないかと思って牽制しただけだろ」
「笠原先生は元々優しいからああ言ってくれただけだよ。それに、下心とか、恭ちゃんじゃないんだから」
「男にならみんなあるんだよ。実紅は警戒心がなさすぎる」