甘い愛で縛りつけて


説得するような声に思わず黙ると、恭ちゃんが私を見る。
その瞳はぼんやりとしていて、本当に私を見ているのか分からなかった。

「俺、実紅だけは傷つけたくない」
「私、恭ちゃんにだったら何されたって傷ついたりしないよ……。
そんなヤワじゃないし、全然……」

大丈夫だからそんな事言わないで。
そう繰り返す私に、恭ちゃんは困り顔で笑みをこぼした。

寂しそうな、ずっと私の心を締め付けてやまない、あの微笑みだ。

「不思議だよな。なんで誰よりも守ってやりたいおまえを、俺が傷つけるんだろうな……。
分かってんなら止めればいいだけの話なのに……それを止められないのも分かってるんだ」
「恭ちゃ……」
「実紅……愛してる。だから、俺から逃げろ」

頼むから、実紅……。
そう繰り返す恭ちゃんに、私は何も答える事ができなかった。







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