甘い愛で縛りつけて


そう呟いた恭ちゃんの声が、なんだか今までのものとは違う気がしてそっと覗き見る。
淡いオレンジ色のダウンライトの明かりを受けた恭ちゃんは、ベッドに腰かけたまま目を伏せていた。

わずかに笑みを浮かべた口もとが色っぽく見えて、不本意だけど、胸が高鳴る。
無理やりキスしてきた相手にときめいてる場合じゃないって思うのに、心臓は言う事を聞かずにいつもより速いテンポを刻んでいた。

でも、ドキドキしながらも、恭ちゃんの表情が気になって。
切なさを浮かべているようにも見える恭ちゃんの顔を、じっと見つめた。

伏せた瞳。わずかな微笑み。
恭ちゃんの表情が、私の記憶の中から、恭ちゃんとの思い出をひっぱり出す。

――そうだ。
恭ちゃんのこういう顔を、昔も見たことがある。

何かを隠してなんとか微笑んでいるような、そんな顔を。
隠しているのは、多分、寂しさとか悲しさとかで、こんな恭ちゃんの横顔を見るたび、胸が軋むように痛く締め付けられたのを思い出す。

でも……。
恭ちゃんはなんでそんな顔をしてたんだろう。
こういう表情を浮かべていた恭ちゃんは思い出せるのに、理由が思い出せない。

寂しさや悲しさの原因は、なに?



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