甘い愛で縛りつけて


お父さんは、バカバカしいとでも言いたそうに息をついて、私に見下すような視線を向けた。
冷たく冷酷な眼差しには恐怖と威圧感を感じたけれど、恭ちゃんをかばっているせいか、気持ちが怖気づいたりはしなかった。

恭ちゃんを守りたい、その一心だった。

「自分の子どもに何をしようが、他人の君が口を出す事じゃない」
「自分の子どもだからって好き勝手に傷つけていいなんて法律はありませんし、虐待です。
虐待の場合、他人だろうと大人は守る義務があります」
「それは子どもの場合だろう。恭介は見ての通り大人だ。虐待じゃない」
「じゃあ傷害って事にしてもいいです。
でも、小さい頃から虐待し続けてきたくせに、よく虐待じゃないなんて言えますね」

真っ直ぐに見つめて言うと、お父さんは呆れたように笑う。
皮肉で、見てるだけで腹立たしくなるような笑みだった。

「そんな証拠がどこにある。憶測だけで物を言うのは止めた方がいい」
「恭ちゃん本人が証拠です。
貴方たち大人が好き勝手したせいで、恭ちゃんは今も苦しみながら生きてる。
貴方が、押し潰すような接し方しかしなかったから」

お父さんはしばらく無表情のまま私を見ていたけれど、気に入らなそうに顔をしかめて「バカバカしい」と背中を向ける。
廊下を歩いて遠ざかるお父さんの背中を、見えなくなるまでずっと睨みつけていたところで、恭ちゃんに腕を掴まれた。


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