甘い愛で縛りつけて
「田口さんももう終わりですか?」
「はい。せっかくですし、河合さんと一緒に出ようかと思いまして」
「……そうなんですか」
「準備できたなら行きましょうか」
やっぱり事務長に待っていてもらえばよかったと思いながらも笑顔を作って席を立つ。
田口さんの家がどっち方面だか知らないだけに、もし途中までずっと一緒なんて事になっても面倒だから、校門あたりに行ったら忘れ物だと言って戻ろうと考える。
だけど、事務室に戻ったところで中に入れないのは、鍵をかけた田口さんが一番よく分かっているだろうし言い訳として穴がある。
だから他の言い訳をと頭をフル回転していた時、田口さんが話しかけてきた。
「朝宮先生、だいぶ慣れたみたいですね」
「え、ああ、そうですね」
職員玄関前の石階段を下りながら話す。
もう夏が近づいているけれど、さすがに19時を過ぎた外は薄暗かった。
日中は晴れていたのに、雲は厚く雨が降り出しそうだ。
今日は特別暑かったから、もしかしたら夕立になるのかもしれないと思いながら泣き出しそうな空を眺める。
部活をしている生徒もそろそろ帰り始める時間帯だ。
「ところで、日曜日の朝、早い時間に出歩いていませんでしたか?」
驚いて、え……と漏らした後、田口さんを見ると、笑顔で返される。