甘い愛で縛りつけて


「いや、僕、土日は朝散歩してるんですけどね、たまたま河合さんを見かけたんですよ。
僕が前、引っ越したいって話をしていた時に言ってたマンション覚えてますか?」

恭ちゃんが住んでいるマンションを言っているんだってすぐに気づいて、答えに困る。
だけど、田口さんは私だって自信を持っているみたいだし、人違いだって言うのは使えなそうだった。

「ああ、散歩してたかもしれません」

中に入るところまで見られてなければこれで大丈夫だと思って、曖昧な返事をした私に、田口さんは追い打ちをかけるように言った。

「あのマンションに入っていくところも見てたんですよ。で、後で調べたんですが……朝宮先生が住んでるみたいですね」
「……わざわざ職員名簿でも見たんですか?」
「気になったので。あんな朝早くから何の用だったんですか?」

最初から恭ちゃんの部屋に行ったのを分かってて遠回りした会話で攻めてきてたなんて悪趣味だと嫌気が差す。
もともと好意なんて少しも持っていなかったけれど、余計に嫌いになった。

石階段を全部下ったところで立ち止まると、田口さんも数歩進んだところで私を振り返った。

「プライベートな事ですのですみません」

謝ると、田口さんはわざとらしい困り顔を浮かべた。





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