甘い愛で縛りつけて


「いや、実はね、河合さんと朝宮先生が親戚だっていう話も事実じゃないんじゃないかって思ってたんですよ」
「……そうですか」
「親戚じゃなかったら、何の用があって朝宮先生の部屋に行ったのか、気になるじゃないですか」
「ですから、さっきも言ったように個人的な事ですし、仕事には関係ない事なので答える義務はありません。
私、用事がありますので、これで……」
「本当は親戚じゃないんでしょう?」

これ以上一緒にいたくなくて背中を向けようとした私を、田口さんが止める。
田口さんは私を見て、「やましい関係だから嘘をついているんでしょう?」と聞く。

「その事を田口さんに言わなくちゃいけない義務はないってずっと言ってるじゃないですか。
もう、これ以上しつこいようならセクハラとして事務長に……」
「事務長も悲しむでしょうね。あんなに可愛がってる河合さんに嘘をつかれてるなんて知ったら」

事務長の名前を出せば私がひるむとでも思ったのか、田口さんは自信ありげな笑みを浮かべていた。
脅すつもりだったのか知らないけれど、人の弱みを握ったらすぐ行動に出るあたり桜田先生と似ているかもしれない。

桜田先生より頭にくるのは、田口さんは男なのにきっぱりモノを言ってこないからだろうか。
ネチネチと言ってくる態度と気持ち悪い笑みにうんざりする。


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