甘い愛で縛りつけて


そこまで考えてから、ああ今の恭ちゃんが、普段の恭ちゃんが怖がっていた人格なのかと気付いた。
きっと、恭ちゃんが隠したがっていた人格だ。

田口さんの車よりも数台分奥に停めてあった恭ちゃんの車の助手席に、押し込むように入れられる。

そして恭ちゃんは運転席につくと、エンジンをかけて車を走らせた。
何度か乗っている車なのに、まるで違う車にでも乗っている気分だった。

もっとも、恭ちゃんと一緒に乗っているっていう感覚さえもなかったけれど。

感情に駆られて……冷静さを失ってる。多分、理性だとか常識だとかそういう事も。
じゃなければ、田口さんを放っておくなんて事、いくら恭ちゃんでもしないハズだ。

ドクドクと嫌なリズムで心臓が動いていた。
田口さんから襲われた恐怖からは解放されたハズなのに、さっきとは違う恐怖感を感じて。

いつか痴漢に襲われた時とは全然違う。
あの時は素直に感情を怒鳴りつけてくれたけれど、今は……何も言ってくれない。

何かにとり憑かれたように何も言わない恭ちゃんは、怖いほどの静かな雰囲気をまとっていた。
きっと……恭ちゃんの中は感情で溢れ返ってる。



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