甘い愛で縛りつけて
『実紅……愛してる。だから、俺から逃げろ』
『頼むから……実紅』
いつかされた恭ちゃんからのお願い。
それはきっと今の事を言っているんだろうと分かっていた。
感情に囚われる前の恭ちゃんが、ツラそうに表情を崩しながら懇願したお願いに、膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめる。
そして……。
信号が青に変わり、車が静かに走り出す時を、助手席に座ったまま待った。
信号待ちの一分間、私は動かなかった。
恭ちゃんの横顔を見つめながら、唇をかみしめる。
逃げない。
恭ちゃんを置いて逃げるなんて、そんな事絶対にしない。
恭ちゃんの走らせる車が、恭ちゃんの住むマンションの駐車場に止まった頃には、いつの間にか降り出した雨が、車のフロントガラスを叩いていた。
泣きだした空が、まるで恭ちゃんの心みたいに思えた。