甘い愛で縛りつけて


どうしたら落ち着くのか、どうしたら安心できるのか。
どうしたら、私を信じてくれるのか。

自分のものさしじゃ通用しないって分かって、恭ちゃんの気持ちになって考えてみようとしたけれど……。
感情のない恭ちゃんの瞳の奥に、私には計り知れない苦しみが潜んでいる事を改めて感じて、諦めた。

私が恭ちゃんの気持ちになるなんてできるわけがない。
生まれてからずっと、周りの大人たちに苦しめられ続けて、本来の自分を隠し続けるしかなかった恭ちゃんの気持ちなんて……私には分かれない。

助けたい。守りたい。
ずっとそう強く思ってきたのに、追い詰められてようやくそんな事私には無理だって気づかされる。

恭ちゃんを守るには、助けるには……分かり合うには。
私に絶対的に足りないモノが多すぎる。

自分を押し込めて他の人格を作ってしまうほどの苦しみなんて、私には想像もできない。
恭ちゃんの気持ちを……共有する事さえ、私にはできない。

恭ちゃんを、分かってあげられない――。


そう思うと涙が流れた。







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