甘い愛で縛りつけて
◇「先の長い話だな」
「小さい頃、父親がよく言ってたんだ。
夕方になったらお母さんが帰ってくるから、だからいい子にしてなさいって。
いい子にしてないと嫌われてもう帰ってこなくなるって」
ベッドサイドに並んで座りながら恭ちゃんの話を聞いていた。
雨が小さな音を立てて窓を打ち付けていた。
さっきまで恐怖を助長するように聞こえていた音が、今は落ち着く音として耳に届くから不思議だ。
部屋に、穏やかで……でも、少し悲しい雰囲気が流れていた。
「今になればどうでもいい事だと思えるけど、そん時は必死だった。
小学校に上がる前から言われ続けてきたから、完全に洗脳されてたんだろうな」
「洗脳されるほど言われてたの……?」
「顔合わせる度にな。だからか、頑張っていい子にしてないとって本気で思ってた。
父親が俺に求めるものは年齢を重ねるごとに大きくなっていって、それに応えるのに毎日必死だった」
一点を見つめたまま恭ちゃんがツラい過去と向き合っている気がして、それを少しでも支えたくて。
恭ちゃんがベッドに置いた手に自分の手を重ねる。