甘い愛で縛りつけて


いつまでもここにいても、田口さんにイライラするだけだと思って歩き出そうとしたのに。
「誰かに送ってもらったんですか? それともひとりで帰ったんですか?」なんて聞かれて。

本当の事を言っても面倒だと思い、ひとりで帰ったって事にしておこうと口を開いた時。
後ろから「僕が送ったんですよ」と声が聞こえた。

「え、朝宮先生が?」
「はい。僕もちょうど帰るところだったので。
それに、田口さんのお酌が断れなかったようで、実紅……いえ、河合さん、だいぶ酔っていたのでひとりじゃ危なかったですし」

“実紅”なんて名前で呼ぶから、焦って振り向いたけど。
恭ちゃんは焦った様子もなく、余裕の微笑みを浮かべていた。

……まさか、わざと?

「今、実紅って呼びましたよね?」

案の定、聞いてきた田口さんになんとかうまい言い訳がないか考える。
だって、恭ちゃんと私が過去に関係があって、しかも初恋の相手だなんて知られたくない。
恭ちゃんだって、こんな場所なんだから気を使って名字で呼んでくれればいいのに!

わざとだとしたら、ものすごい嫌がらせだ。



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