甘い愛で縛りつけて


「実紅は体調悪くてもギリギリまで我慢する癖があって、両親も心配してるんですよ。
今も熱があるのに無理しているようで……本当に困るよ」

最後の言葉だけ、私を見て言った恭ちゃん。
嘘ばかりつかれて本当に困ってるのはこっちだ。

体調なんか悪くないし熱だってない。
だけど、すぐにそう言い返せなかったのは、恭ちゃんの口調に戸惑っていたからだ。

ここは学校だし、私や恭ちゃんにとっては職場だから、普段と違う口調なのは当たり前で恭ちゃんの口調が丁寧なのだって社会人としたら当然の事。
それは分かってても……恭ちゃんの口調が気になって仕方ないのには訳がある。

だって、この口調は――。

「どうかしたかい?」

振り向くと事務長が不思議そうに見ていて。
咄嗟に「なんでもないです」って言った私の隣で、田口さんが余計な事を言う。

「河合さん、体調が悪いらしいんです」
「それは大変だ。もしツラいようなら今日は帰りなさい」
「えっ、いえ! 全然大丈夫ですから!」

まったく疑わずに心配してくれる事務長に手をブンブン振って否定する。

本当に大丈夫って事をアピールしたつもりだったのに、オーバーリアクションが逆に無理しているようにとられてしまったのか。
事務長は顔をしかめて恭ちゃんを見た。


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