甘い愛で縛りつけて
◇「もしかして期待してんのか?」
「あー、疲れた。毎回思うけど挨拶なんかいらねーだろ。誰が聞くんだよ」
保健室に着くなり、恭ちゃんはスーツを脱いでロッカーのハンガーへと掛けた。
ついでに、“猫かぶり恭ちゃん”の口調も脱ぎ捨てる。
ベージュ色した床に、白い壁、白いカーテン。
神聖な雰囲気の保健室に、今日の恭ちゃんの爽やか演出された紺色ネクタイがよく映える。
「……もう戻ってるし」
恭ちゃんの乱暴な口調に呆れながら、ため息を漏らした。
「戻ってるって、何が?」
ロッカーを閉めて、白衣を羽織る恭ちゃんが片眉を上げながらこっちを見る。
目もとで光るのはとても細い銀縁の柔らかい四角い眼鏡。
飲み会の時してた眼鏡とは違っていた。
「眼鏡、いくつか持ってるの? この間のと違う」
なんとなく話題にしただけだったけれど、恭ちゃんが驚きからか瞳を歪めたから、その反応に私も驚いてしまう。
答えに困るものでもないただの日常会話なのに、なんでそんなに驚くんだろうと疑問に思ったけれど。
その疑問をぶつけるより先に、恭ちゃんが表情から驚きを消して笑みに変えた。