甘い愛で縛りつけて


「私、ちょっとお手洗いに行ってきます」

はぁってため息をついてから、立ち上がる。
トイレから戻ってきたら、私の隣を陣取ってる田口さんが他に移っててくれないかな。
それともこのまま気分が悪くなったって帰っちゃおうか。

……ダメだ。会費の徴収がまだだし。

私が帰ったって事になったら、絶対に事務長が私の分も払っておいてくれるに決まってる。
事務長に迷惑かけるのはイヤだし、仕方ないからもう少し我慢するか……。

ため息をついて、手を洗いながら目の前の鏡に視線を上げると、うんざりした顔の自分と目が合った。

田口さん、よくこんな顔してる私にめげずに話しかけてくるなぁ。
誰がどう見たってイヤがってるのが分かりそうなものなのに。

もしかすると田口さんには、人の表情を観察する能力が欠如しているのかもしれない。
ああ、なるほど。だから、笠原先生の事もあんな風に言ってくるんだ。

「笠原先生か……」

私よりも4歳年上だった笠原先生は、生徒にも人気がある先生だった。

サッカー部の顧問をしていて、去年はサッカー部を全国大会まで連れて行った実力のある先生。
とにかく爽やかですがすがしくて、生徒思いの先生だった。





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