甘い愛で縛りつけて
物憂げに目を伏せていた恭ちゃんが私を見て「実紅は中学に上がってもまだまだガキだったけどな」と笑う。
その笑顔は、寂しげな表情を完全には隠せていなくて……。
先週ホテルで垣間見た、あの笑顔と同じものを感じた。
その表情に、なんだか切なくなってしまって。
ガキだったなんて言われてるのに、憎まれ口を何も返せないまま黙って俯いた。
“何かを、忘れてる気がする”
さっき漠然と感じた思いが疼く。
私の勘違いなのかもしれない。
何も忘れてなんかいないのかもしれないし、思い出したところでどうになる事でもないかもしれない。
第一、六年も前の事だ。忘れてる事なんかたくさんあって当たり前じゃない。
そう思うのに気になって。
“何か”を求めて、必死に思い出の中を走り回る。
恭ちゃんとの初めての出会い、恭ちゃんの背中を追い回した毎日……引っ越し。
そういえば……。
六年前の引っ越しの理由はなんだった――?