甘い愛で縛りつけて


黒い短髪で、ジャージになって生徒とボールを追いかける姿は、女子生徒の憧れの的だったし、教員にも人気があって。
バレンタインには義理だとは思えないチョコもたくさんもらってたっけ。

私も一応、男性教員みんなに渡した義理チョコを、笠原先生にも渡したけど。
ありがとうって微笑まれれば、それだけで満足できるような気持ちだった。

つまりは本当に憧れだ。

「異動先、北高校だっけ」

きっとまた生徒にも教員にも人気が出るんだろうなぁ、なんて思いながらトイレを出る。
そして、KY田口さんをどうやってやりすごそうか考えていた時。
2メートルほど先に立ってる人影に気づいた。

「あ……」

顔を上げて、思わず声が出る。
壁に寄り掛かるように立ってこっちを見ている人物に、見覚えがあったから。

180センチ近い身長と、茶色がかった長めの髪。
整った顔にかかるのは、細い黒フレームの眼鏡。

美形って言葉を擬人化したらこうなるだろうなって、二時間前紹介された時に思ったのを思い出す。
二時間前の紹介、つまり、新しく赴任してきた先生の紹介で。


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