甘い愛で縛りつけて
どんな事情があるのかは分からないけど。
私が求めるのは、恭ちゃんが周りの為に本当の自分を犠牲にして作り上げた、嘘の恭ちゃんなんかじゃない。
そんな、悲しい恭ちゃんじゃない。
「……実紅」
「演技なんかしないで。演技の恭ちゃんは……優しいかもしれないけど、寂しいから。
他の人は知らないけど……私は、今の、本当の恭ちゃんがいい」
自分でも何を言っているのかよく分からない。
ただ……微笑んでるのに、演技をしている恭ちゃんはなんでだか冷たく感じてしまって。
そんな恭ちゃんとキスしたくなかった。
恭ちゃんは目の前にいるのに、それは造り物みたいに思えて悲しくて堪らない気持ちになった。
優しさを浮かべた瞳も、穏やかさをまとった口調も。
全部が、私の手を通り抜けそうだった。
それが寂しくて……寂しくて、仕方なくて。
恭ちゃんは、戸惑った顔をしたまましばらく黙っていた。
誰もが優等生の恭ちゃんを望んでるなんて思わないで。
周りの人が演技の恭ちゃんを望むのが当たり前だなんて思わないで。
本心を隠した、感情の通わない冷たい恭ちゃんなんか、私はいらないから。
ちゃんと、見せて。本当の恭ちゃんを。
記憶されたままの、恭ちゃんの落とす切ない笑みが強く胸を痛ませる。
あんな悲しい顔して笑わなくちゃならないくらい、頑張って演じないで――。
じっと見上げる先で、恭ちゃんの瞳が揺れていた。