甘い愛で縛りつけて


「あ、あの……っ」

謝らなくちゃいけないのかも分からないけど、異様なくらいの不機嫌オーラを放つその人に耐えきれなくなって、とりあえず話しかける。

私の目の前でぴたって立ち止まったその人を見上げて、もうなんでもいいから謝ろうとして……また何も言えなくなった。
私を見下ろすその人が、悲しそうな顔をしていたから。

てっきり怒ってるんだと思ってたのに……。
なんで、こんなに悲しそうな顔してるんだろう。

「あの……?」
「“初めまして”なんて、本気で言ってんのか?」
「え?」

前に、会った事があるって事……?
でも、こんな整った顔した人、会ったとしたら覚えてないハズない。

でもこの声――。

「覚えてねーの? 俺のこと」

確かに聞いた事がある。
六年前まで、毎日のように聞いてた声に似てる……。

“恭ちゃん”に。



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