♡Trick or kiss♡
「竹内」
鼓膜を震わすテノールボイスは、いつ聞いても心地よい。
「はぁーい、何、委員長?♪」
上履きに履き替えながら振り向くと、深く眉間に皺を寄せた彼―――委員長が立っていた。
「…お前は何で、何度言っても時間内に登校できない?」
「まぁまぁ、遅刻っていってもたったの3分じゃん?♪」
「そういう問題ではない」
彼がぐっと口を結ぶ。
あたしこの顔、結構好き。
「だいたい、その髪の毛も…何度言ったら直してくるんだ?」
「うーん…そのうち?♪」
「って言って、もう半年以上が経つな」
あたしは自慢のミルクティー色の髪の毛を、クルクル弄ぶ。
「うーん、でも可愛くない?この色♪」
「可愛い可愛くないの問題ではない、校則で髪色は黒と決まっている」
委員長は大真面目な顔で、毎度お決まりのそんなセリフを言うと
「明日こそ時間通りに来いよ」
クルリとあたしに背を向ける。