小春日和
 

そこまで言われて、俺は漸く理解した。



「……妊娠!」



やっと事の重大さに気がついた俺に、岩城さんは続ける。



「それだけじゃねえぞ。女が子供を産むって行為は、腹ん中で十月十日、自分の血肉を分け与えて子供を育てるっつう事だ。


その為には二人分の栄養素が必要になる。だが今の姐さんの体じゃあ、まず出産には堪えられないだろう。だから今のうちからしっかり食べて、体力をつけておかなきゃなんねえんだ」



確かに岩城さんの言うとおりだった。姐さんのあの華奢な体では、腹ん中の子供に栄養を分け与えるなんて到底無理だろう。



俺は岩城さんの先を見据えた考えに驚嘆すると同時に、己の至らなさを恥じた。



自分が如何に軽率な考えでいたか深く反省した俺は、もう一度すみませんでしたと深く頭を下げる。



「謝る相手が違うだろ。本当に姐さんの事を思うなら、お前に出来る事は姐さんの好きなものを見つけて、俺に報告する事だ。後の事は俺に任せろ」



そう言うと、岩城さんは俺の頭を豪快にバシンと叩き、厨房へと戻って行った。

 

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