小春日和
「………あ゛?」
ニコニコと満面の笑みで語る姐さんとは対照的に、どういう事だとルームミラー越しに鋭い視線を向けられ、冷たい汗が脇の下を伝い落ちて行く。
『それでつい嬉しくって、夢中で食べ過ぎてしまって、お腹が苦しくなっちゃった。
でも、運動会でも遠足でもないのに、あんな手の込んだ豪華なお弁当、どうしたのかしら……』
最後は独り言のように呟く姐さんに、組長は俺達が見たこともない優しい笑顔を浮かべる。
「あんな小さい弁当ぐらいで、腹がいっぱいになってんのか?しょうがないな。
だが、それなら心配はいらねえな。今夜はいつも以上に激しくしてやるから、あっという間に消耗するだろ」
甘い声で囁く組長に、思わず勢いよくアクセルを踏み込みそうになった。
!!……やっべ。姐さん可愛すぎでしょ。真っ赤になって組長の胸元に額をグリグリと押し付け照れる姐さんの姿に、ついニヤニヤと顔を緩ませれば、不意に後部席の仕切りが上げられた。
そして仕切りが上がりきる直前、ミラー越しに見た組長の視線は、それだけで息の根を止められるほどの威力で。
ご、誤解です組長!決して邪な思いで見てた訳じゃないんです!!
「死んだな」
助手席からポツリと呟かれた若頭の言葉に、この後の叱責を覚悟し、がっくりとうなだれた。