小春日和
愛しきものは
《side 猛》
俺達の仕事は、フロント企業に所属するヤツらは別として、勤務時間や定休日なんてもんは特にねえ。
親父の跡を継いでからは表に出る事が殆どなくなり、大半は本宅か事務所で下から上がってくる情報の精査や、直轄のフロント企業の経営チェック、組織内の人事などの指示に明け暮れている。
だから夜型の商売ではあっても、割と学生の香織に合わせた生活リズムを送る事ができる。
ところが、ここ数日は西日本に展開している組の組長達との会合や、傘下の組の杯事なんかが続いて、本宅に帰れない日が5日も続いた。
こんなに長く香織と顔を会わせてないのは、入籍してから始めての事だった。
「………チッ」
フロント企業から四半期毎に提出される決算書に目を通しながら、そこそこ好調な数字が並んでいるにも関わらず、フツフツと涌いてくる苛立ちについ舌打ちが出た。
……香織が足りねぇ。
香織の動向は、香織付きのヤツに定期的に報告させているし、日に2~3回は直接電話で話もしているが、あの細っちい身体を抱きしめ、俺の腕ん中で幸せそうに微笑む姿を見られないのが、こんなに堪えるとは。