小春日和
ピリリリッ――
メールの受信を告げる音に、イライラしていた気持ちが一気に凪いでゆく。口元がだらしなく緩むのが分かっていても、止められねえ。
俺の携帯にメールを送ってくるヤツなんて香織しかいねえ。側に控えていた龍二が静かに席を立つのを横目に、メールを開く。
『お休みなさい』
簡潔な一文に思わず苦笑が漏れる。香織はいつもこうだ。
電話はおろか、メールすらも仕事の邪魔になりはしないかと、遠慮して自分から寄越すことをしない。
だから一日に一度くらいはメールを寄越せと約束させれば、就寝前にこの短いメールを送って来るようになった。
すかさず携帯を操作し電話を掛ける。ワンコールを待たず香織の控え目な声が耳を擽った。
『今、お時間は大丈夫なんですか?』
「ああ。変わった事は無かったか?」
香織の行動など、とっくに組員から報告を受けているんだが、素知らぬ顔で聞いてみる。
『はい。今日はお庭のシャクヤクがあまりにも見事で、スケッチをしていました』