小春日和
今日のノルマだった送り状150枚程を書き終え、ずっと同じ姿勢で凝り固まった体をほぐすため、う~んと伸びをする。
時計を見れば、猛さんが帰って来るお昼まで、後少しだ。
何となくテレビの電源を入れれば、女性アナウンサーが浴衣姿で、蛍が見られる観光スポットを紹介していた。
事前に取材していたVTRが流れ、濃い藍色の闇の中を黄緑色した小さな光が、ふわりふわりと舞っている。
話にしか聞いたことがなかったけど、蛍って本当に光るんだ。
初めて見る不思議な生き物に、つい引き込まれてテレビに集中していたら、不意に耳元で囁く低音ボイスに飛び上がってしまった。
「ただいま」
『わぁっ!! おっ、お帰りなさい』
びっくりし過ぎてソファーからずり落ちた私の体を、逞しい腕にひょいとすくい上げられる。
あんまりびっくりして、つい変なん声を上げた私を、笑いをこらえつつも「驚かせて悪かった」と言いながら、猛さんは膝の上に横抱きで抱き上げた。
「随分と見入ってたようだが、蛍が好きなのか?」
腰に回した腕を少し揺らして、楽しそうに顔を寄せてくる猛さんに、真っ赤になりながら慌てて首を振る。