空のこぼれた先に
「っ」
クレア王女のその微笑みを見た瞬間、私はここに来るまで、とんでもない勘違いをしていたのだと気付いた。
────現在、この国は、クレア・ハーモニアという弱冠14歳で王の権力を手にした少女により統治されている。
古くから女王による絶対王政が敷かれてきたこの国では、国外に強まる民主化の風潮にもその体制が揺らぐことはない。
今年16歳を迎えたクレア王女による統治も、2年の歳月が過ぎようとしていた。
クレア王女は2年前に国を襲った流行り病によって、両親を一度に亡くしている。
母親である先代の女王は、とても物腰の柔らかい王だったらしい。
彼女の政治は、一言でいえば実直。
民のためを思う政治は評判がよく、彼女自身、人々に愛されていた。
私は当時、政治だとか経済だとか、そういう難しいことには疎い年齢だったから、詳しいところは分からない。
それでも、今の────クレアの政治と皮肉交じりに比較される先代の治世は、評判どおりのものだったのだろう。