空のこぼれた先に
「カノン、起きてるかい!?」
朝食の準備をしていたら、いきなりドアが無遠慮に開かれた。
入ってきたのは隣に住んでいるニナおばさんで、今日もいつもと変わらず朝っぱらから元気がいい。
俺はカタン、と持っていた皿をテーブルに置いて、「おはよう、ニナおばさん」といつもの調子で言葉を返した。
「おはよう!朝早くから申し訳ないんだけど、カノン、あんたにお願いがあるんだよ」
少しくすんだ金色の髪をひとつに結わえ、白い肌に青い瞳をしたニナおばさん。
年々ふくよかになっていくような気がするけど、本人にそれを言ったことはない。
言ったら殴られそうだし。
「お願いって?」
聞くと、おばさんはニコッと笑う。
「朝食がおわってからでいいからさ、コレを商店街のアーサーのとこのパン屋に届けてほしいんだ」
片手で重そうな麻袋を持ち上げて軽やかに笑うニナおばさんに「いいよ」と頷いた。