空のこぼれた先に
つられるようにアメリアの指先が指す方に視線を向けると、そこには他とは比べ物にならないくらい大きくて立派な天幕が張られていた。
この通りはいつも市が開かれているから、出店やああいった天幕が張られることは多いけれど、あんなに大きいものは見たことがない。
「あんなに大きな天幕、一体何の出店なんだろうね、って皆で話していて……。カノン、知らない?」
指さしていた腕を下ろし、俺の方を見ると小首を傾げたアメリア。
そんな彼女に、俺も首を傾げるしかできなかった。
友達も多く情報通な彼女が知らないのに俺が知っていることなんて、ほとんどないと思う。
「ごめん、知らない」
俺が答えると、その答えを半ば予想していたのだろう、アメリアはさほどがっかりした様子もなく、
「そうだよねぇ。なんだろう」
とこころなしか楽しそうに言った。
この祭りを心から楽しみにしているのが伝わってくる。
楽しいことや賑やかなことが大好きなニナおばさんが母親なのだ。
その遺伝子を当たり前に引き継いでいる彼女は、俺が起きる前から張りきって祭りの準備を手伝っていたに違いない。
「アメリアー!いつまで話しこんでるの、こっち手伝って!」
沿道沿いにずらりと並んだ出店のひとつからアメリアを呼ぶ声が聞こえ、彼女はよく通る声で返事をする。
そして「アレが何なのか、もしも分かったら教えてね」と俺に向かって屈託のない笑みを残すと、呼ばれた方へ駆けていった。