空のこぼれた先に
「あー、これか」
やがて辿り着いた天幕は、近くで見るとやはりアメリアと見た時よりもずっと迫力を増して見えた。
深い紅の色に金の刺繍が施された布地。
その生地がどれだけ高級なものであるかは、俺でさえ一目でわかった。
どうやら出店の類ではなさそうだ。
どこかの貴族が今から場所取りでもしてるのか?
ぼんやりと考えながら視線を上に向けていく。
金の刺繍は、俺の身長あたりで見覚えのある紋章を作っていた。
複雑な模様が刺繍されていたから、紋章に気付くまで、少しの時間を要した。
けれど気付いた瞬間、自分の目が大きく見開かれたのが分かる。
……ユリの花と鷲の翼をモチーフにした紋章。
国民ならきっと誰もが知っている。
見間違えるはずもない。
王族の────ハーモニア家のものだ。
「……っ」
息をのみ、思わず一歩後ずさっていた。
そして反射的に天幕に背を向ける。