空のこぼれた先に

……どうして、こんなにも怯えているのだろうか。

そういえば彼女は、目の前を歩く俺のことに全く気が付かないくらい必死で走ってきたのだ。

いくらフードをかぶっていて視界が悪いだろうとはいえ、こんなに勢いよくぶつかるなんて、よく考えればおかしい。

ただ走ってきたというよりは、何かから逃げてきたと考えるほうがしっくりくるような気がする。



「あんた、俺に怯えるのは勝手だけど……、こんなところでじっとしていていいのか?誰かから逃げてきたんじゃ」

逃げてきたんじゃないのか、と最後まで俺が言う前に、目の前で身体を固くしていた彼女はハッとしたように身体を震わせ、慌てたように立ち上がった。


俯いたままだったから、フードの奥の顔はわからないまま。

それでも、形のいい唇がきゅっと真一文字に結ばれていたのが見えて、強い決意のようなものがうかがえた。



……この反応はたぶん、俺の考えが合ってた、ってことだよな。

彼女がこんなに怯えているのは、何かから……、誰かから、逃げているから。


今日は年に一度の祭りの日。

たくさんの人が集まるから、その中にワケありな人物がひとりやふたり混ざっていたとしても、何ら不思議はない。
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