空のこぼれた先に
……多分、かかわらないほうがいい。
俺が彼女のために何かできるとは思えないし、そもそも怯えられている身だし。
しゃがんでいた姿勢から立ち上がりながらそんなことを考えて、取り敢えず彼女のために道をあけた。
彼女がいったい何から逃げているのかは知らないけれど、無事に逃げ切ることができればいいと、自分でも不思議なほどに強く思った。
「ここの道、細くて分かりにくいから逃げるにはちょうどいいんじゃねぇの」
そう言って、まっすぐに進もうとしていた彼女の腕を掴んで引きとめ、俺の進行方向であった、いちばん細い路地に視線を投げた。
反射的に足を止めたらしい彼女は驚いたように俺の方に顔を向けたが、相変わらずフードが邪魔で顔が見えない。
それでもフードの隙間から覗く口元や細い首筋、艶やかな髪、そして彼女の纏う雰囲気から、深窓の令嬢なのではないかと思わせられた。
彼女は、自分とは違う世界の人間。
なんとなく、そんな感じがした。