空のこぼれた先に
「ホラ、早く行け。追い付かれるぞ」
俺は、完全に立ち止まってしまった彼女の腕を路地のほうに押すようにして手を離した。
……そのとき。
「っ!?」
ひゅっ、と目の前を何かが通り過ぎていった。
反射的にその軌跡を視線で追えば、壁に何かが刺さっている。
こげ茶の柄。
……短刀だ。
「……」
一瞬、言葉を失った。
まさかとは、思うけど。
彼女か、俺を狙った……?
サッと、自分でも血の気が引いたのがわかる。
「っ、オイ、走るぞ!」
「!?」
考えがまとまるより先に、気付けば走り出していた。
一度離した彼女の手を掴み、引っ張るようにして進む。
突然、一緒に逃げ出ることを選択した俺に、後ろで懸命に走っている彼女は驚いていることだろう。
だけど考えるより先に行動してしまっていたのだから、仕方ない。
あの短刀を投じた人間が狙っていたのはおそらく俺ではなく、彼女。
彼女が逃げてきた方向から投げられたものだったし、一瞬だけど人影らしきものが見えた。