空のこぼれた先に
入り組んだ路地のなか声を掛けてきたのは、ひとりの女だった。
彼女と同じ色の外套を羽織っているが、外套についたフードは背中のほうに落ちている。
「姫様……!よかった」
俺のことなどまるで見えていないように、女がこちらに駆け寄ってきた。
……ていうか、姫、って。
やっぱりどこかいいとこの令嬢だったのか、この子。
「大丈夫ですか!?怪我はしていませんね!?」
女の問いに、彼女はこくりと頷いた。
彼女の様子から、どうやらこの女は彼女の敵ではないようだ。
頷いた彼女に女はホッ、と安堵の息を吐いて、強張っていた表情をゆるめる。
そして女はようやく俺の存在に気が付いたように、視線をこちらに向けてきて。
そしてまっすぐ目が合った途端、女は驚いたように大きく目を見開いた。
「……カノ、ン……?」
よく見ると、とてもきれいな顔をした女だった。
この国では珍しい、俺と同じ茶系の色をした瞳と髪。
長い睫毛に縁取られた目は少しだけつりがちで、はっきりとした二重瞼。
きれいに通った鼻筋、血色のいい唇。