空のこぼれた先に


「よし、とりあえずこれでいいか。……あんた、ちょっと待ってて」

荷物をまとめた俺は部屋のドアの傍でじっとしていた令嬢に声を掛け、ひとり家を出た。
そして、隣の家のドアを叩く。


「はーい!……あれ、カノン」

ドアを開けて顔を出したのは、アメリアだった。

「どうしたの、深刻そうな顔して。私、忘れ物を取りに来ただけだからまたすぐに準備に戻らないといけないんだけど……。用事は、なにか難しい話?」

そう言ったアメリアは、胸の前に袋を抱えていて、本当に今にも家を出るところだったのだろう。

俺は、アメリアの言葉に首を横に振った。

「いや。少し急なんだけど、長期の仕事が入って。しばらく家をあけるけど、心配しなくていいから。……って、言いに来ただけ」

「えっ、そうなの?いつまで?」

俺の言葉に驚いたように声を上げたアメリアに、俺は少し考えるような表情をして、「未定なんだ」とだけ答える。

「そっか……、わかった。お母さんたちには私から伝えておく。……気を付けて行ってきてね。仕事、頑張って」

「ああ。アメリアも祭り、楽しんで」

そう言うと、アメリアは「ありがとう」とにっこり笑みを浮かべた。

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