空のこぼれた先に
……本当の家族は、幼いころになくした。
ずっとひとりだった俺にとって、まるで家族のように接してくれる隣人のアメリアやニナおばさんの優しさが、どれだけ嬉しかったか。
どれだけ、支えてもらったか。
サユを失っても、なんとか心が壊れずにいられたのだって、まぎれもなく彼女たちの存在があったからだ。
この街を出ていくことに躊躇いはない。
だけど、黙って出ていけるほど、愛着がないわけでもなかった。
自分を気にかけてくれる人がいて、自分も大事に思える人たちがいる幸せを、今更ながらに噛みしめた。
「よし、じゃあ行くか」
自分の家に戻り、未だドアの傍で立っている令嬢に声を掛けると、まだフードをかぶったままの彼女は小さく頷いた。
最後に一度、ぐるりと家の中に視線を巡らせる。
そして、すでに外に出ていた令嬢に続いて家を出て、鍵を掛けた。
この令嬢との逃亡がいつまで続くことになるのか、一体どこがゴールになるのかもわからない。
だけど、なんとなく。
理由もなく、ここに帰って来られるのはずっと先になるような気がしていた。